・ビジネスシーンにおいて行動経済学をどのように活用すればよいかがわからない
・社内外の利害関係者をどのように動かしていけばよいかがわからない
今回はこのようなお悩みをお持ちのビジネスパーソンにお届けします。
行動経済学とは
これまでの経済学は、「人は合理的に意思決定を行い行動する」という前提のもとに成り立ってきました。
しかし、実際には人は必ずしも合理的な行動をするわけではなく、感情や直感で動くこともあります。
たとえば、思わず直感的に以下のような行動を取ってしまうことはないでしょうか。
(私はよくやってしまいます・・・)
・「10人中9人が〇〇しています」といわれると、ついそうした方が良いのかと思ってしまう
・「期間限定」という表記に弱く、つい手にとってしまう
・口コミを気にしてしまい、同じような商品でも評価の高いものを選んでしまう
行動経済学では、「人間は感情で動き、非合理的な行動をとってしまうこともある」という前提に立ったうえで、人の心理的な傾向を分析、把握し、それを理論的に体系化していきます。
ナッジ理論とは
行動経済学を実社会やビジネスシーンで活用するために、理論的に体系化したのが、ナッジ理論です。
ナッジ(Nudge)の元々の言葉の意味は、「ひじで軽く突く」です。
2017年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者のリチャード・セイラー教授が提唱しました。
「強制することなく、相手がより良い選択をできるように促すアプローチ」のことを指し、相手をそっと後押しして、行動を促します。
例えば、レジの前にある足跡のマークはナッジの代表例といえるでしょう。自然と並ぶ場所が分かる効果に加え、コロナ禍においてはソーシャルディスタンスを保つ効果もありそうです。
つまり、ナッジ理論とは「相手に選択の余地を残しながらも、相手が自発的により良い選択をするように導くアプローチ」のことを指します。
ナッジ理論のフレームワーク
ナッジ理論を現場で使いやすくするためのフレームワークとして、
「EAST(Easy,Attractive,Social,Timely)」があります。
ナッジ理論を活用するための4つの視点として、注目されています。
5つの方法から発想を出す
- Easy (簡単)
人は、自分にとって魅力的な情報によって動かされる - Attractive (魅力的)
人は、自分にとって魅力的な情報によって動かされる - Social (社会的)
人は、社会規範に影響を受ける。他の人がどのような行動を取っているのか気になる - Timely (タイムリー)
人は、自分にとってタイムリーなアプローチに反応しやすい
行動経済学の理論について
ここからは行動経済学の代表的な理論を7つご紹介します。
- 損失回避性:損する情報が行動を促す
- 現状維持バイアス:人は今のままがよいと考えがち
- 選択回避の法則:選択肢は少ない方が選びやすい
- 極端回避性:真ん中の選択肢が魅力的にうつる
- 同調性:人は「他人がどうしているか」気になる
- フレーミング効果:見せ方次第で判断が変わる
- 初頭効果:第一印象が大切
詳しく解説していきます。
損失回避性
「失う痛みは得る喜びの2倍」とも言われるように、人には損失を嫌う性質があります。これを「損失回避性」と呼びます。
今自分が持っているものに強く固執する傾向があり、失うくらいなら、たとえ利益を得る可能性があったとしても行動を起こさない、ということもあります。
リスクを取るよりも確実な方を選びやすいのです。
例:「○月○日までに“失効”するポイントは・・・」といったお知らせをすることで、損をしたくないという気持ちを煽り、ポイントを使った買い物へと誘導する。
現状維持バイアス
人には「今のままが一番よい、できれば変えたくない」と考えてしまう「現状維持バイアス」があります。このバイアスは非常に厄介で、変えることで必ず利益があるとわかっている場合でも、現状を変えないという選択をしてしまうことがあるのです。
例:通販サイトの有料会員サービスの「無料体験」に申し込み、使い勝手の良さに慣れてきた頃、有料移行の時期がきて、そのまま有料会員になってしまう。
選択回避の法則
選択肢が多い方が、相手に選択の余地を与えるためよいのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、選択肢を増やすことで相手は選択を先延ばしにしてしまいます。
例:「選択肢が少ない方が、相手の行動を促す」ということを証明した有名な実験があります。アメリカの心理学者がジャムの販売を題材に、絞り込みの効果を実証した事例です。24種類のジャムと6種類のジャムそれぞれを試食できるようにした場合、6種類の方が、購入した人が多かったというものです。選択肢が多すぎることは、相手の意思決定を阻害することがあるのです。
極端回避性
値段が異なる3種類の商品が並んでいる場合、真ん中の商品を選んでしまう傾向があります。(いわゆる「松竹梅の法則」と呼ばれるものです。)
商品の価格設定や商品・サービスのラインナップを決める時に極端回避性に配慮することで、相手に選んでほしい選択肢を戦略的に設定することができます。
例
松:オプションをフルで付けたプラン
竹:要望に沿ったプラン(売りたいプラン)
梅:オプションが最低限のプラン
同調性
口コミや流行が気になってしまうのは、人間の本能とも言えます。
「あなたの周りの10人中9人が○○しています」と言われると、思わず「私もやった方がよいのかな」と本能的に考えてしまいます。
このような傾向を同調性と呼びます。
例
・他の人はどうしているか気になり、口コミを見て判断する
・他の人は自分をどう思っているか気になる
・周りからズレていると「変わっている」と思われるかもしれないため、周りに合わせる
フレーミング効果
人は何かを選択するときに、自分の基準(枠組み)にあてはめて別の判断をしてしまう可能性があります。
内容が同じでも、伝え方や見せ方で印象がかわることがあり、「フレーミング効果」と呼ばれています。
同じ半分の水が入ったコップを見ても、ある人は、「もう半分しか水がない」と考え、またある人は「まだ半分も水が入っている」と考えることがこれにあてはまります。
例
少額商品(例:コンビニのおにぎり)の場合、値引きの方法は、「〇%引き」という表示よりも、「おにぎり100円セール」の金額表示の方が効果がある。
初頭効果
第一印象が大切といわれるのは、初頭効果があるためです。
良くも悪くも、最初にインプットされた情報が後々まで残りやすく、初めて会う相手やお客さまと接するときには特に注意しなければなりません。
身だしなみやあいさつ、話し方などで最初に悪い印象を持たれることがないように、気を配っておく必要があります。
行動経済学の身近な活用の仕方
ここからは行動経済学の具体的な活用シーンについて、ご紹介します。
- 営業
・商品を紹介する時には、選択肢を多くしすぎないで、選びやすいようにセットでみせる
・他社事例を伝えることで、同調性を刺激して、購入を促す
・プレゼンをする時には、大事なことを最初に端的に説明する - マーケティング
・商品開発をする際には、値段の設定に注意する(極端回避性)
・商品を複数選んでもらえるように、最初から選んでほしい選択肢をセットでみせる
・人気商品であることを数字などを使って伝えることで、選んでもらいやすくする - 資料作成
・大事なことは一番目につきやすいところに書くようにする
・データを使って、同調性を刺激して、自分の資料に信用性を持たせて、相手を動かす - コミュニケーション
・保守的な上司を動かすためには、現状維持バイアスを打開する必要がある
・大人数の相手を動かしたい時には、「他の人はやっています」ということを伝え、同調性を刺激する
まとめ
いかがでしたでしょうか。
行動経済学はビジネスシーンに限らず、あらゆる場面で活用することができます。
ぜひ、明日からこれらを意識してみると、今までなかなかうまくいかなかったことがすんなりうまくいくかもしれません。